2013.6.10
FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選 日本代表オーストラリア戦レポート
2013年6月4日 埼玉スタジアム2002
2014 FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選 対オーストラリア戦。
ゴール裏で大勢の12人目の選手たちと共に歌い、迎えた歓喜の瞬間。
鳴り響く太鼓のリズムと人々の怒号にも似た声。
はじめて出会った隣の人と共に歌い、共に手をたたき、共に抱き合う。
そこには目に見えない、言葉では言い表せない、僕らをつなぐ“何か”があった。
キックオフ3時間前、16:30開場。
スタジアムに収まりきるのか不安になる程の見渡す限り『青』を身に纏った人、人、人。
早朝から食べ物やアルコール、遊び道具を持ち込んで“その時”を待っていたのだ。
待機列の道中には、試合予想する会話が飛び交いW杯出場の瞬間を待ちわびる顔で満ちあふれていた。
そして日が落ちかけた頃会場入りした。
コンコースやゴール裏では、横断幕の準備をしてるサポーターの姿があった。
会場入りするや否や、コンコースにサポーターが集まると知らせてくれる。
どうやら選手が会場入りするバス待ちをするらしい。
人だかりが人を呼び、その輪が広がり繋がっていく。
コンコースでは100人を超える人たちが、そして地上ではフラッグを持ったサポーターが、今か今かとバスを待つ。
先に到着したのはオーストラリア。
そして10分ほど経った頃だろうか。
我らが日本代表のバスが到着。
後方にいる人たちからバスの姿は見えないが、その場にいる全員で、全力の「ニッポン」コール。
なぜだろう。羞恥心もなく、何かのスイッチを押されたかのように、声を出さずにはいられない衝動にかられ、その熱が周りの人たちに連鎖していった。
戦いは既に始まっていた。
選手入場、そして国歌斉唱。
一触即発の緊張した空気の中、12人目の選手たちのボルテージが一気に高まる。
頭上を覆う青く巨大な横断幕。
その下で叫び、願うサポーターの想いが波となってその横断幕を揺らす。
19:34キックオフ。
ピッチ上の気温23.3℃ 湿度54%。
ゴール裏は熱気に包まれ、その数字より暑かったのではないだろうか。
本当の戦いはこれからだ。
試合が始まれば、あとは声の限り応援するだけだ。
時には10分以上歌い続けることもあるチャント。
「ニッポン」コールだけではない。
選手一人一人を鼓舞し、時には相手を煽る。
そこは年齢も性別も関係なく存在する「フットボールと音の世界」
81分、先制したのはオーストラリアだった。
ヨルダンの地で体感した苦い思い出が蘇える。
しかし、サポーターの声は止まなかった。
失点直後すぐさま
「ここに何しにきた!俺たちにできることは応援だろう!止めるな!応援し続けろ!」
そんな声が飛んできた。強さを纏ったその言葉が心に刺さる。
その通りだ。
失点後から、より大きな声援がピッチに向けられた。
85分くらいからか。
より一層祈りのこもった太鼓のリズムと声援と自らの興奮が混ざり合い、意識がうすれていくような不思議な感覚に襲われていた。
そんな中、奇跡が起こる。
ショートコーナーからのクロスを、ペナルティエリア内で相手選手がハンド。
ペナルティキックが与えられたのだ。
笛が吹かれた瞬間、時計の針は90分を指し、止まった。
残された時間はアディショナルタイム。
62,172人の観客の想いが、キッカーの本田圭佑選手に集まる。
一瞬時が止まる。
狙うゴールの後ろには、願うサポーター。
ボールの軌道はやや曲線を描き、ほぼゴール中央を刺す。
劇的な同点ゴールとなった。
試合はそのまま終了し、念願のW杯出場権を獲得。
その瞬間、ゴール裏は終了のホイッスルさえ聞こえないほどの歓声に溢れていた。
試合後、笑顔、涙、抱擁、ハイタッチ、記念撮影、各々その喜びを噛み締める。
そして激闘の末、W杯出場権を獲得したSAMURAI BLUEの選手たちへ、賞賛の声が止むことはなかった。
フットボールがつくり出す熱狂が人々を駆り立て、誰もが全力で歌わずにはいられなくなる。
そしてその歌声が、フットボールに力を与える。
ゴール裏では、「フットボール」と「音楽」の融合により、不思議な魅力の循環が生み出されていた。
声を嗄らし,共に戦う12人目の選手であるサポーター。
その一人一人に、それぞれの物語がある。
毎試合、声と体を張り日本代表に多くの物を懸けてきた人。
偶然チケットを手にし、初めて観戦に来た人。
仕事を休んできた人。
仕事を終わらせてからから駆けつけた人。
そして、会場に入りたくても入れなかった人。
チャントには、そんな様々なサポーターの想いが込められている。
まさに応援歌。
音楽の力を改めて感じる事ができた貴重な経験となった。
MIFAスタッフより